ホームへ

イラク レポート <米国編2>


FRIDAY掲載

帰国一年後に生まれた娘の右手指はなかった!

イラク帰還米兵「劣化ウラン弾汚染」の真実

愛娘のビクトリアちゃんは、中指から小指までの3本の指がない状態で生まれてきた。いまのところ右手以外に異常はないという。
「私の軍への愛は一騎で消えてしまった。国に裏切られた思いでいっぱいだ」
 もうすぐ1歳になるという娘を抱きかかえ、ジエラルド・マシューさん(31)は私にこういった。
 ニューヨーク州兵だったマシューさんが、輸送部隊の一員として初めてイラクに入ったのは'03年5月中旬。以降、軍用トラックを運転し、クウェートの基地とイラクを何度も往復した。爆撃された町を抜け、破壊された戦車や軍事車両などを運ぶ。砂嵐に遭遇し、視界が利かず、砂漠の中で立ち往生することもしばしばだったという。
 部隊には医書かおらず、同年9月、マシューさんはドイツにある米軍の病院に移送された。煽国後は陸軍病院で診察を受けたが、原因は不明だった。
 帰国してまもなく、妻のジェニスさんが妊娠。そして悲劇が起こる。「担当の産科医が、挨拶するより先に発した言葉が「放射性物負に触れたことはありませんか?」というものでした。二人の初めての子供に喜びでいっぱいだっただけに、そのときのことは、いまだに忘れることかできません」
 ショックを隠しきれないマシューさんに、医師はこう続けたという。「お腹の赤ちゃんは、右手がありません」
 はたして、昨年6月に生まれたビクトリアちゃんの右手には、豆粒のような小さな指が2つしかついていなかった。
 夫婦の家系に先天的異常は見受けられない。だが、イラクの子供たちの奇形の写真を見て、マシューさんはあまりにも状況が似ていることに気づく。自分の健康との関係について考え始めたのは、それからだったという。「その後、私と同じような症状で苦しんでいた州兵の仲間から、劣化ウラン弾のことを初めて知らされました。当時は自国の軍隊が劣化ウラン弾を使い、被害が出ていることなど誰も知らなかった。教えてくれる人もいなかった」

▲ イラクでは輸送部隊に配属されたマシューさん

▲ 被害者たちは軍と政府を相手に裁判を起こしている

 劣化ウラン弾は、着弾後に高熱で爆発し、微粒子となって周囲に飛散する。体内に入ると、被爆と同時に重金属の毒性で内臓が冒され、白血病や癌、奇形児の発生などさまざまな症状を引き起こす。初めて実戦投入されたのは湾岸戦争で、イラク戦争では人口密集地域で大量に使用された。イラクでは、その影響と考えられる癌や白血病か多発し、奇形児がたくさん生まれているのだ。「帰国時、軍医に『イラクでさまざまな害虫や化学物質に触れたので、今後1年は子供を作るな。献血は10年間行ってはならない』といわれたんです。無事に家族と再会できる喜びでいっぱいで、そのことが何を意味しているのか当時は理解できず、気にも留めていませんでした」
 マシューさんらは軍に劣化ウラン弾の検査を要請したが、取り合ってはもらえなかった。だが、'03年秋、地元紙の「ニューヨーク・デイリーニュース」がドイツの民間機関で彼らを検査した結果、帰還兵10人中9人に劣化ウラン弾の異常値が認められたのだ。マシューさんは通常の8〜10倍の高い数値だったという。
 さらに1年後には、ヒラリー・クリントン上院議員らニューヨーク州選出の国会議員、州知事などから、帰還兵全員の劣化ウラン検査を求める意見が次々と上かる。慌てて尿検査が行われたが、軍による発表は「全員異常なし」というものだった。どこまで信じられるのか……。
 また、ニューヨーク州兵でサマワに駐屯していた部隊からも、同じように劣化ウラン検査で陽性を示す兵士たちか出ている。サマワでの駐屯地だった鉄道貨物集積所は、劣化ウラン弾で汚染された可能性が高い地域。実際、米軍の撤退後にサマワの治安維持にあたったオランダ軍は、集積所の放射能チェックを行い汚染を確認したうえで、町から離れた砂漠の中にキャンプを設営したのだ。
 軍、そして政府の対応に怒りを覚えたマシューさんら被害者は、次々とマスコミに出演し、不満と不信を訴えた。彼らは現在、国に補償を求める裁判を起こしており、今月中には結論が出るという。
 憲法の精神と愛国を疑わずにイラクへ赴いた米兵たち。国への忠誠心はいま、音を立てて崩れ去ろうとしている。
<FRIDAY 2005年6月17日付に掲載>


このサイトの写真・文章の著作権は、森住卓に属します。無断での二次利用を禁じます。
Copyright Takashi Morizumi