コソボ レポート 目次へ

●民族の嘆き 1999コソボ●
2000年視点展に出品した「民族の嘆き−コソボ1999」が奨励賞を受賞しました。 ここに、その作品を紹介します。昨年、週刊プレイボーイに掲載した記事も併せてご覧下さい。
虐殺された夫の葬儀を行った後、泣き崩れてしまった。
 鼻を突く死臭、ハエが飛び交う草はらが所々黒く枯れている。 虐殺された遺体が放置されていたところだという。 草はらの脇の灌木の茂みに胴体、頭部、脚が衣服を付けたまま放置されている。 近づくと吐き気をもようすひどい腐臭が身体にまとわりつく・・・・・。
 ここはコソボのアルバニア国境から数キロメートルのメイヤ村の虐殺現場。 ここで80人のアルバニア人が殺されていたという。すでに、10日ほど前NATO軍が遺体を片づた跡だった。

草はらに放置された遺体の一部。まるで我々、ジャーナリストを待っているようだった。左手には胴、頭部、脚がバラバラされた無惨な死体が転がっていた。
 しかし、なぜ、全部片づけずに4体の遺体が転がされているのか。 おなじ村の民族が殺されているのに平気な顔で見ていられる村人は何者なのか?村人は口々に「セルビア軍と警察がやった」という。 小さな子どもまでが言う。
 他にもあるかも知れないと、案内役の14歳の少年バルス君は地雷を踏まないようにゆっくり安全を確認しながら歩く私に 「ここは地雷がないから安心して歩っていいよ」とどんどん進んでしまう。 多感な年代のバルス君は死者を見ても全く感じないらしい。死が日常化しているからなのか。
 もし。これがセルビア人の遺体だったらどういう反応を村人たちが示していたのだろうか。 4体のバラバラにされた遺体はわざと残されたのではないか?我々メディアに見せるためにと思えるほどだ。
 「セルビアは悪魔」だとするキャンペーンに、同じ民族の遺棄死体まで利用するアルバニア人。 それほどまでに民族の断絶は決定的なものになってしまったのか。
セルビア軍やセルビア警察によって徹底的に破壊されたと言われているダコビツッアの町
 プリズリンの宿で見たBBCニュースはプリシティナ周辺のセルビア人の町がアルバニア人によって襲撃されている事を伝えていた。
 翌朝プリシティナの北西40キロメートルの町コソボスカ・ミトロビツアに向かった。 途中の村も火の手が上がっている。NATO空爆前後にアルバニア人の村はセルビア軍や警察によって放火され破壊されてしまっていた。 今や60%以上のコソボの家が破壊されたと言われている。 セルビア人アルバニア人両民族の無傷の村はない。

4ヶ月ぶりに避難先から村に帰る家族。 避難先で産まれた赤ちゃんがこれからの希望だ。まだ家が無事に残っているのかわからないと言っていた。(プリシティナ近郊)
 コソボスカ・ミトロビツッアの町にはいると至るところでフランス軍が検問を行っていた。 町の西部にあるセルビア人の住宅地域はすでにNATO軍侵攻後無人化してしまった。
どこからともなく集まってきたアルバニア人たちが無人化したセルビア人の家に入り込み家財道具や衣類、窓枠まで外してどこかに持ち去っていく。 なかにはトラクターまで使って運び出す者もいる。 男たちに混じって女や子どもたちも略奪に加わっている。ひと通り運び出してしまうと男たちが家の中に入っていく。 暫くすると、その家から黒煙が立ち上がり、やがて炎に包まれてしまう。
 警備中のフランス軍は彼等の行動を見て見ぬ振りをしている。 むしろこれでは、無人のセルビア人の村でNATO軍が彼等の行動を庇護しているようだ。
 主を亡くした犬たちが缶詰のレバーペーストを塗ったフランスパンを警戒中の兵士からもらっていた。
 無法地帯と化したコソボからベオグラードに帰ると 「アルバニアから国境を越えてやって来たギャングや、元々ごろつきだったKLAが村に住むアルバニア人をやったのだ」と言うニュースも流れていた。
 そして、コソボのプリズレンで泊めてもらったアルバニア人の家でのことを思い出した。

セルビア警察に協力したジプシーはアルバニア人が戻ってくると彼らの恨みを買い、逆に放火略奪の対象になった。
 アルバニアTVの記者がプリズレンから北西に行ったジャコバの虐殺現場のビデオテープを日本で売ってくれないかと持ちかけてきた。 BBCは8,000ドル出すと言ったがCNNは12,000ドルだったのでCNNに売ったと喜んでいた。 同じ民族が殺されている現場を撮影したビデオを外国メディアに売ろうとするアルバニア人。 しかも、検証もできないビデオテープを高額をは払って買う巨大メディアは、それをそのままスクープ映像「セルビア人による虐殺」として流してしまった。
 こうして、NATO空爆と欧米メディアによってつくりだされた両民族の亀裂は修復しがたい所まで来てしまった。

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