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ベーリック君との出会い


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ベーリック君  私はここで何が始まるのかまったくわからず、何気なく壁側のソファーに腰を掛けている少年の 顔を見て息をのんでしまった。 両目瞼が腫れ上がり、その瞼が両目を塞いでいる。顔の形もゆがんでいる。

 呆然と立ちすくんでいた私にユーリさんが早く写真を撮れと脇腹をつついた。撮影していいのもかどうか ためらったが、ある言葉が頭をよぎった。「撮影することが第一に大事なことだ。現場で撮るか撮らないかを 判断してはいけない」。私が常々現場での行動規範にしている言葉だ。「そうだ、早く撮らなければ」と、 はやる気持ちを抑えてカメラのシャッターを切りつづけた。

 これがベーリック君との最初の出会いだった。その時、彼に発した言葉は、「ベーリック」という 彼の名前だけだった。あとは記憶にない。



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