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地下核実験場と「原子の湖」

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 実験場に隣接したカイナール村から東に2時間ほど草原を走った所で実験場に入る。 しかし「このあたりが実験場の入口だ」と言われても、境を示すものは何もない。 はるか向こうにデゲレン山が見えている。めざす目標がはっきりしているので、迷うことはない。 未舗装ながらもりっぱな道がつけられている。さすが軍事目的の道路だ。

 標高900メートル近いデゲレン山の裾野は、幅24キロ、長さ50キロある。 ここで1963年以降、地下核実験が343回にわたって行なわれた。 「昔はアカマツやシラカバの生えた緑豊かな山だった」と案内してくれたアキンバイさんは 子ども時代を思い出しているようだった。それが今では、岩石が地中から押し流され、 山容がまったく変わってしまった。木は1本も生えていない。標高も低くなってしまった。

 セミパラチンスク放射能医学・環境研究所のボリス・グシェフ博士によれば、 343回の地下核実験のうち、120回、つまり3回に1回は失敗したという。ということは 放射生ガスが漏れたということだ。

 実験はデゲレン山の谷の一番奥まったところで行われた。 そこには実験の影響を調べるため縦横にトンネルが掘られ、計測機器が配置された。 ためしに1つのトンネルに入ってみたが、入口から10メートルほど奥に入ったところで それ以上中に入れないように破壊されていた。 携えていた放射線測定機を見ると東京の30倍以上の値を示している。 足下から血の気が引くようだった。

 デゲレン山から帰って数日後、「原子の湖」に出かけることになった。

 地元の人たちが「原子の湖」と呼ぶチャガン人工湖は、1965年の核実験によってつくられた。 通常は地下数10メートルにで爆発させるのだが、この時は湖をつくるのが目的だったので 通常の10分の1ほどの深さで爆発させてしまった。

 私たちは、爆発によってできた外輪山に登り、この湖を見降ろした。 どこまでも碧く澄んだ湖面に柔らかな春の風が吹きわたり足下には黄色い可憐な花が 咲いていた。放射線測定機は振り切れ、計測不能になっていた。ピーと鳴り続ける警告音が 静まりかえった湖面に吸い込まれていく。



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